俗に言う「インスリ」
これは副腎疾患・リンパ腫と並ぶ、フェレットの三大疾病の1つで、別名「膵島(すいとう)細胞腫」とも呼ばれています。
膵臓の中に島みたいな状態で散在している「ランゲルハンス島β細胞」というインスリンを分泌する組織に腫瘍ができる病気です。
膵臓は胃と十二指腸の間にある臓器(図⑩)で、膵液という消化酵素を十二指腸に分泌したり、ホルモンを分泌する働きがあります。
インスリンとは膵臓で分泌されるホルモンの1つで、血液中の糖質を体内に取り込んだり、グリコーゲン(肝臓や筋肉に蓄えられる糖質=エネルギー源)の合成を助けるなどの働きをします。
④心臓
⑤横隔膜
⑥肝臓
⑦胃
⑧腎臓
⑨脾臓
⑩膵臓
⑪十二指腸
⑬尿管
⑭膀胱
インスリンは、食事をして血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)が上がると分泌されます。
インスリンが分泌されることによって、糖質がエネルギーに変わったり、体内に取り込まれたりして、その結果「血糖値が下がる」状態になります。
血糖値が下がれば「インスリンの分泌も減少する」というのが本来の体の仕組みです。
ところが、インスリノーマになると
腫瘍化したランゲルハンス島β細胞が多量のインスリンを分泌するようになります。
そうやって、血糖値の濃度に関わらずインスリンの分泌が続いてしまうという状態は、すなわち、「糖質の取り込みが止まらない状態」という事です。
その結果、血糖値が下がりすぎる「低血糖」を起こしてしまうのです。
フェレットのインスリノーマの腫瘍は悪性の場合が多いとされていますが、転移することはあまり無いと言われています。
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ただ、腫瘍の摘出手術をしても再発の可能性は少なくないとも言われています。
インスリノーマの検査・その症状とは?
空腹時に「低血糖になっているかどうかを見て」診断をします。
大体は、2~4時間くらい絶食の後の安静状態で採血し、血糖の値を調べます。
※ストレスにさらされていたり、興奮状態にあると血糖値は上昇するため、正確な値が出せません。
「フェレットの正常な血糖値」というのは文献によって多少のバラつきがあるため、病院によって目安の値は少しずつ異なりますが、その多くは
血糖値が70mg(~60mg)/dl以下を低血糖とし、
「低血糖症またはインスリノーマの疑い」というような診断になるかと思います。
いたちのおうちのわさび君は71mg/dlでステロイドの投薬を開始しました。
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低血糖(症)の症状
低血糖の状態(空腹時などでも)は、体内がエネルギー不足になっているという状態なので、
元気がない
寝ている時間が長い(寝てばかりいる)
起きていてもダルそうにしている
ボンヤリしている
といった症状が見られます。
健康でも寝ている時間が長いとされるニョロリン達。
その中でも「うちの子は本当に寝てばかり」って子のお話しはたくさん聞きます。
それは正常で健康な状態です。
だから、
「初期の症状」に気付きにくいのです。
シニア期(4才以上)に入ると、一気にその患畜数が増えると言われている、このインスリノーマ。
2才で発症した子を知っています。
定期的な健康診断はもちろんの事、「気付かないうちに進行していた」なんて事がないよう、血液検査も若いうちから定期的に必ずしてあげて欲しいと思います。
「低血糖の状態」(正常の範囲)なのか「低血糖症の症状」(病気)なのかはきちんとした血液検査に基づくお医者さんの診察でしか判断できません。
早期に発見してあげる事が何よりも大切です。
軽度の症状
吐き気がするため、
よだれが出ていたり
前足で口の周りをこすったり
泡を吹いていたり
また、
後ろ足に力が入っていないような状態になったり
失禁
震え
などといった、交感神経に関係する症状が出始めます。
進行した症状
痙攣(けいれん)
意識を失う
昏睡
といった、中枢神経に関係する症状が出ます。
後遺症が残る可能性がある
低血糖の症状を軽く考えないで下さい。
早期発見が大切だと言ったのは「後遺症が残る」可能性もあるからです。
こちら、「役に立つ薬の情報~専門薬学~」さん(人間用)からお借りしてきた画像になりますが、神経というのはこういう仕組みです。
痙攣などの発作は脳神経系が血液中のブドウ糖を栄養として得られない事によって起こる中枢神経系の症状です。
その状態が長く続いたり、適切な処置を受けられずに何度も繰り返されるという事がどれだけ恐ろしい事かお分かり頂けますでしょうか…
命の危険や後遺症が残る可能性があるんです。
早く気付いてあげなければいけないのです。
インスリノーマの治療とは?
腫瘍の摘出手術(外科手術)と、投薬治療(内科投薬治療)という方法があります。
摘出手術によって「完治する」という事は少ないとされていて、この場合のそれは完治が目的の治療では無い場合がほとんどですが、それでも、
ステロイド投薬の開始を延期できるため、その副作用の軽減など、その子の生活の質を高めてあげる事がより可能だと期待ができたり、
他にも開腹手術が必要な病気を持っている場合などもあるので、
投薬のみで治療するよりも長く生きられる事が可能なケースも多くあるとされています。
ただし、腫瘍を摘出した後、高血糖になる可能性は否定できません。
それは術後の一時的な反応である場合がほとんどだとはされていますが、そのまま膵臓のインスリン分泌機能が回復しないといった状態になれば、永久的な高血糖症という事で、今度は糖尿病の心配をしなければいけなくなるかもしれません。
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開腹という大きな手術ですから、当然それ相当のリスクだってあります。その手術で死んでしまう可能性だって0ではありません。
担当の獣医さんとよく話しあって、あなたとその子にとって一番良い治療方法を選んであげて欲しいと思います。
- 摘出手術をしたうえでの投薬治療
- 手術はしないという選択、もしくは、その子の年齢や状態によって「出来ない」という場合などで投薬治療のみ
他にも選択肢はあるのかもしれませんが、いずれにしても
インスリノーマを発症したら、生涯に渡って血糖値のコントロールが必要だという事だけ理解しておいてあげて欲しいと思います。
投薬治療
プレドニゾロンなどのステロイド剤やジアゾキシドなどのインスリン分泌抑制剤を投与して血糖値をコントロールします。
一方だけを投与する場合とそれらを併用する場合というのがあり、
もちろんそれは、その子の症状に合わせた治療方法なのだとは思いますが、このジアゾキシドというお薬は、日本で2008年に認可が下りたばかりで値段が高価なためか、
2017年現在、まだ一般的な治療としては使用していない病院も多いと聞いています。
これは、ステロイド投与量を減らし、その副作用を軽減させるとも言われていますので、もし、かかりつけのお医者さんで使われていない場合は、その旨直接聞いてみても良いんじゃないかと思います。
ちなみに、プレドニゾロンにはインスリンに対する抵抗性をつけ、さらに血糖を増加させるという働きがあります。
これらの投薬によって、その子が一時的に元気になったとしても
摘出手術をしていない場合、お腹の中のインスリノーマが無くなったわけではありません。
摘出手術をしても6〜7割以上の確率で再発すると言われているのが、このインスリノーマです。
あくまでもそれらは症状を緩和してあげるためだけの治療だと理解しておいてあげなければいけません。
それらは腫瘍に働きかけるような効果では無い。完治を目的とした治療では無い。という事を忘れずに、
「元気になった(ように見えた)から」などという判断で勝手に投薬を止めたりせずに、
必ず、続けていってあげて下さいね。
投薬治療(ステロイド剤)の副作用は?
どんな薬にも副作用というものがあります。
しかも、このインスリノーマは腫瘍です。
その投薬は腫瘍に対しての治療では無いわけですから、「病気の症状」は徐々に進行していきます。
進行し続ける症状に合わせてステロイド剤の投与量も増やしていかなければいけません。
ステロイドの長期間・多量の投与は、程度の差はありますが、それなりの副作用を必ず引き起こします。
副作用の主な症状は、
- 食欲・飲水量の増加に伴う一時的な肥満
- 胃腸障害による真っ黒なウンチ
- 胃腸機能の低下による痩身
- 免疫機能の低下
などと言われており、免疫機能の低下は多くの重篤な病を引き起こすきっかけになります。
それについては、こちら「免疫力が低下するとどうなる?」(人間用)など参考にして頂ければと思いますが、この子達の場合…というか、この場合は、低血糖の症状の方が「命に関わってくる」という判断のもと、ステロイドの投与を中止することはまずありません。
副作用が出たらその症状に合わせた、その都度の対症療法で対応していくという事になります。
こちらは、インスリノーマでずっと治療を頑張っていた子の最後のウンチです。
ウンチというより、その時を迎えて天に還る準備…少しでも体を軽くしようとしたのかな…
飼い主様が「噴射した」と言っておられました。
家庭での日常的な治療(維持療法)
インスリノーマの治療というのは、外科手術の時か、よほど症状が進んで長時間に渡る点滴治療(入院等)が必要とされる場合以外は、その多くが上記のような投薬を自宅で続けていくことを言います。
「お家で飲み薬を投与して低血糖を改善させる」のが一般的な治療とされているのです。
お薬の他にも、ブドウ糖液(緊急時用にお尻から投与するブドウ糖もあります)を処方されるのが一般的かと思います。
これはニョロリン達が「日常の生活を快適に過ごせるように」するための、いわゆる維持療法だという事を意味します。
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下アゴがポッコリと腫れたワサビ君 それに気付いてからのお話しはこちらなど 今日までの間、私達いたちのおうちスタッフは、多 ...
こちら(フェレット専科)にてご紹介させて頂いている「くらた動物病院」の先生のブログで「インスリノーマの予後」にはこうあります。
インスリノーマが原因の低血糖は、持続的に増殖する腫瘍が原因であるため、原則的には病態は進行性の疾患です。経過時間とともに血糖値の低下傾向は強まります。
しかしながら、一方でインスリノーマに罹患したフェレットの予後は、個体によっての差が非常に多く認められる事も事実です。
どのフェレットも血糖値は時間経過とともに低下傾向を示しますが、数週間で急激な低下を示す場合も稀にある一方で、半年、1年経過しても殆ど同じ血糖値を示している場合も有ります。
大多数の場合においては、インスリノーマは投薬によって安定した良好な生活の質を維持することの出来る、長期間のケアーの必要な慢性疾患と捉えることが出来ると思います。
これは、きちんとした対処をしてあげていれば、その後も長い間ずっと一緒にいられる事が大多数なんだよ!って事です。
どうか、過剰に不安になったり、必要以上に病気を怖がったりしないで、どんな時でも冷静に、正しい判断を、その子のためにしてあげて下さいね。
発作を起こした時の応急処置・間違わないで欲しいこと
低血糖のけいれん発作を起こした時は「糖質の補給が必要」とされています。
発作を起こしている時に、砂糖水などをシリンジで飲ませたり、砂糖などの固形物を口の中へ入れたりするのは誤嚥(ごえん)に繋がる危険性があります。止めて下さい。
ブドウ糖液(なければガムシロップやハチミツ)を歯肉にすりこむように与えます。
…と、言われていますが、
「糖分の経口投与」は実はとても危険な処置だという事を忘れないでいてあげて欲しいんです。
投与直後に一時的に増加した血糖が、その後のインスリンの反応でさらに激しい低血糖を引き起こす場合があります。
だから、発作を起こした時には、上記の応急処置を施して一時的に落ち着いたように見えたとしても、そのまま、なるべく急いで病院へ連れて行ってあげて欲しいのです。
状態によっては「この応急処置をしないで連れて来て下さい」と念を押す獣医さんもいます。
その場で獣医さんと連絡がすぐに取れる状態にあるのでしたら、まずは先生の指示を仰ぐのが一番です。
そういう場合に備えて、「けいれん発作を起こしたらどうしたら良いか」を事前に担当の獣医さんと打ち合わせしたり、きちんとその説明を聞いておくことを忘れないでいてあげて下さい。
検診の際、その間に起きた小さな変化(発作まででは無いにしても気になる症状など)や、そのタイミングなどを正確に報告できるように普段からメモを取っておくと良いかと思います。
また、キシリトールなどのいわゆる「ただの甘味料」は甘くても糖分の補給には効果が無いとされています。
ワンちゃんではキシリトール中毒が報告されてもいますので、この子達にもそれは避けてあげるべきじゃないかと思います。
キシリトール中毒のお話しはこちらにも
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発作を起こさないように気を付けてあげる事・間違わないで欲しいこと
低血糖を起こさないように毎日の食事には特に気を付けてあげて下さい。
血糖値が下がる「空腹の状態」になってしまう事が無いように食事の回数を増やしてあげて下さい。
(健康なニョロリン達に対してもそうですが)糖質(炭水化物)が過剰にならないように、かつ、高タンパクなご飯にしてあげて下さい。
「低血糖にならないように」と、普段から糖質(炭水化物)を与えるのは逆効果です。
糖質というのはインスリンの分泌を促すので、低血糖の状態がひどくなってしまうのです。
インスリノーマにおける糖質の補給は発作(症状)が出ている時のみです。
だから、発作を起こしていない時にはブドウ糖液を勝手に与えたりするのも絶対にダメです。
甘いオヤツも厳禁です。
また、ビール酵母やアガリクスなどは、あくまでも栄養剤です。
それらを病院で投与されたというどなたかの経験談からだとは思いますが、それらが「治療になる」と誤解されてる方が時々いらっしゃるそうです(獣医談)
それらを与えるからと言って、勝手に投薬を止めたりは絶対にしないであげて下さい。
私はサプリメント信者でもアンチでもありません。
その子の体質に合えばそれは素晴らしい効果が期待できる物はたくさんあると思います。
少しでも生活の質を高めてあげる事が期待できるそれがあるのだとしたら、それらを妄信的にただ取り入れるのでは無く、上手に活用してあげて欲しいと思っているだけです。
私も友人から勧めてもらったサプリメントを獣医さんときちんと相談したうえで取り入れさせてもらっています。
この時はステロイド剤との併用です。
フェレット 口内潰瘍(潰瘍性口内炎)とは?【わさびの療養記録2〜サプリメントをあげてみる事にした〜】
わさび君は最初の診察で 「穴を開けての排膿は止めた方が良いね」って話になりました。 「この状態では、穴を開けた時の出血量 ...
予防法は無いけど…
「デンプン質の多すぎる食事が原因では無いか?とする説がある」と獣医さんから聞きました。
真偽のほどは未だ不明とされていますが、
それがどっちだったとしても、炭水化物(デンプン質や糖質)の多過ぎる食事はこの子達には不適当です。
いずれにしても、避けておいてあげた方が良いのです。
また、糖質の中でも果物に含まれる単糖類は特にインスリンの分泌を促進する事で知られています。
そう言った意味では、フルーツも避けてあげた方が良いと思います。
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糖質に比べ、血糖値の上昇が緩やかとされるのがタンパク質だという事はダイエッターには言わずと知れた…いや、一般でももう広く認知されている常識なんじゃないかと思います。
この時にもお話しさせて頂きましたが、
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この子達の食事にはやっぱり、いかなる場合でも「良質で充分な動物性たんぱく質」が一番良いんじゃないかと思います。
今日の天使たち
今日、登場してくれているとても穏やかなお顔をした2ニョロ…
インスリノーマと診断されてからずっとお薬を飲んでいる生活でした。
飼い主様は、お二方とも、その生活を当たり前として、それを「大変」だとか、
インスリノーマである事を「可哀想」だとかそういう発言を聞いた事は一度もありません。
だからなのでしょうか、
どちらのニョロリンもいつ遊びに行っても、これらの写真通り、本当にいつも幸せそうで
「あ、来たの?ゆっくりして行きなよ」って言ってくれてるみたいに見える子達でした。
どちらもその最期は、激しい発作などでは無く「とても安らかに」だったと聞いています。
おもちくん
さりこちゃん
さよならの挨拶を私にもさせてくれてありがとう。
今頃はもう、虹の橋の向こうで、美味しい物を食べているかな?
少しゆっくりしてるかな?
これからは、そこからノンビリ見ててね。色んな事を教えてくれて、ありがとう。
追記
ステロイド剤を含め、「投薬」を飼い主の判断で勝手に中止する事は絶対に止めて下さい。
症状の悪化を招く事があります。
「ぶり返した」その状態は、「取り返しがつかない状態」での再発だったりする事があるのです。
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